#107
昭和42年12月
春子はオリンピック出場を決めた。
岩田家では恒例のお祝いのすき焼きです。
和ちゃんも一緒です。
(春子)世界中の人が見てる前であんまり酷い恥はかかれへん。やるだけのことはやって最高の自分を見せたいねん。
(冬子)カッコええ!!
(秋子)最高の自分やてそういう言葉がようすんなりと出るなぁ。
人に勝ついうことよりも大事なことがあるいうことに気ついただけ。それを大事にしたいねん。
カッコええ!!
(春男)カッコええ!!
春子の言葉にみんな感心する。
賑やかな食卓です。
すまんな和人。やかましいやろ?食うた気せえんやろ?
(和人)いえ、楽しいです。
あ、楽しいか?
(照子)和ちゃんから楽しいって言葉聞いたらなんか妙にほっとするね。
そやから冬ちゃんとええコンビやねん。
つまらんといて。
あ、そや。来年はタカラジェンヌやしな?これで和人の就職が決まったら何の心配もあらへん。
一瞬空気が静まり返る。
和ちゃん就職すんの?
当たり前や。そのために和人は苦労して働きながら学校行ってんねんで?うちとこみたいな工場にいつまでもしばりつけておくわけにはいかへんねん。
工場はどないすんの?あんた1人で大丈夫?
何心配してんの?俺がいてるやん。誰や思てんねん。お父ちゃんやで。
カッコええ!!よかったな和ちゃん。あ、今や。就職するて言うてしまい。
冬ちゃん…。
無神経やで。
和ちゃん!和ちゃ~ん!
物干し場と窓からの会話が萌え設定過ぎる![ラブ]()

和ちゃんさっきはごめんな。
ええねん。せっかくのお祝いやったのにシラけさせてしもうてごめんな。
そんなこと気にせんといて。それより和ちゃんは平気やの?お父ちゃんに悪いなんて思うこといっこもあらへんからね。
平気や。
悪いなって思う時もあんねんけど平気になってしもた。
四国のおばさんとこからここ来る時もな。えらい悪いなぁて思てん。行かんといてくれておばさんも言うてたしな。
でも平気やった。俺はそういうやつやねん。
私かてきっとそや。人から何言われても自分が思たことはやってみたなる。和ちゃんもそんな人のこと気にしたらあかんて思う。
…冬ちゃんもあとちょっとやな。
うん。年明けたらすぐ文化祭や。これからもっと練習せなあかんねん。
楽しみやな。和ちゃんも見に来てな。なっ!絶対見に来て。
うん。頑張って。
和ちゃんもな。頑張ろな。
…おやすみ。
春男は寂しそうにしてる。
春子が春男の肩を優しく揉んであげる。
そんな時間もスケート始めてからはなくなってた。
お前よう頑張ったな。ほんま偉いで。お父ちゃん誇らしわ。
私も。お父ちゃんとお母ちゃんの子で誇らしい。
東京の斎藤に電話した照子は夏子の仕事が順調ではないことを知る。
ヒット曲出すのは努力だけではどうにもならない。
宝塚音楽学校では文化祭の準備に取りかかろうとしていた。
歌のソロに麻子と理江が選ばれ冬子も一緒に喜ぶ。
もうすぐ文化祭の日がやってきます。
つづく。
和人は"平気になってしもた"って言うけど、自分で平気なんだと一生懸命言い聞かせてる。
そして平気だと思う自分は悪いと思い込んでる。
ほんとは繊細で春男やみんなに悪いなと思ってるんです。
和人は周りに気兼ねばかりして自分を肯定的に捉えられない。
父親が突然死んでしまって四国でうどん屋をやってるおばさんに引き取られることになった時、次兄の政也はこき使われるだけだと、ものすごく嫌がっていたんです。
きっと四国のおばさんは和人を都合の良い働き手として手放したくなかっただけ。
扱いが悪かったのは容易に想像できる。
和人はおばさんの家族に世話になることにずっと気兼ねしてきたんだろうな。
賢作の病気もあったから余計に。
和人はずっと自分の本当の気持ちを抑えて我慢して生きてきたんです。
周りを恨まず自分が悪いと思うことで保ってきたんだと思う。
誰にも迷惑をかけず、世話にならず、自分の力だけで1人で生きなきゃいけないとの思いを強く持ってきた。
優しくされることにも慣れてない。
人の好意に素直に甘えることもできない。
でも、和人が子供の頃から岩田家の人たちもパン工場のみんなもローリーもみんな優しかったよ。
もっと自分を好きになって人生を楽しんでいいんだよ。
和ちゃんをギュッと抱きしめてあげたくなります。